「いやあ驚いたヨ 本当に。やっぱプロのミュージシャンの息子ってすごいモンだよな。ココロ騒いだゼ♪」って、風街が ステージ後に褒めてくれて。
「いや、手柄の大半は マルオ先輩のドラムのエッジと、出しゃばらないマミコのベースラインさネ。ワシは単にワイワイ騒いでたダケで」
イベントは終わり、学校の公務員から リヤカーを借り受けて、貸してた楽器類を 我が家へと運び終えて、
リヤカーを返却しての 帰り道でした はい。
「リクちゃん チョっとエエか??」声をかけてきたのは リクめもバイト仕事で出入りしてます 老舗旅館セイキロウの女将さんで。
女将さんは「大変スマンのやけども…金曜日の夜、チョっと手伝いに来て欲しいのヤけども 夜の時間、かまへんか?」と。
ええ大丈夫 時間作れますと答えますと、
「スマンねえ…最近はスッカリと 週休二日制が定着してきてるやん?せやから 金曜日の晩とかに、観光バスの団体が集中するねん。マジでメッチャ忙しくてネ」と。
ボチボチと、中国からの団体客も増えてきた時期で
団体客の来訪はうれしいけども、でも、予めの 低料金での宿泊契約を旅行社と交わしている旅館としては 儲けが少ない・・・
旅館の部屋を 泊まるヒトも無く遊ばせているよりマシですが、大人数の受け入れは【とにかく疲れる(><)】
次第次第に 女将さんをはじめ、旅館の仲居さんやスタッフらは、疲弊ぶりが徐々に積み重なっているのでした はい。
その金曜の晩、そろそろ日付が変わろうって時間 リクめは旅館の調理場で、ボウルに 18ケ」の卵を割って入れておりました はい。
女将さんが顔を出してきて「ゴメンね リクちゃん。団体のお客がこんな夜中に急に《卵焼きが食べたい!》なんて言い出すから 6人前も。」
「いえ、高度な技術が要る 焼き物ではない限り 問題ナイですヨ 卵焼きならば」とわたいが答えますと、
女将さんは「エエねぇ お料理が得意な男の子は。叶うならば、リクちゃんのような地元の子に、ウチとこの婿養子に迎えたいとこなんヤけど」
・・・『 また そのハナシの蒸し返しかヨ・・・ 』っと鼻白むわたくし。
包丁と料理は 11歳からヤったtリクちゃま
いくら ココの旅館の跡取り娘が わたいの事を気に入ってくれてるからって…その跡取り娘が気に入る いらないって以前に・・・
いくら土地イチバンの老舗旅館だからって、テメエの一生を 大番頭として 一生、旅館の半纏着て送る気持ちは持ち合わせていないのだ うん。。。
女将は呟きます・・・ でもねえ…もはや、この商売、旅館業もそろそろ 潮時なのかも。。。
なんせが ココの旅館の売りは・・・二階のせり出し縁側から 釣り竿垂らせば、下の海から ナンボでもサカナが釣れたってのが、
10年になるか…この 島崎地区の大々的《埋め立て 緑地化計画》が京都府建設開発部の肝いりで実施されて、肝心の《海は》・・・
旅館の観光価値台無しだお(--;つまらん不要な埋立で
200mも先まで、埋め立てで遠のいちゃって。。。知ってるやろ?ウチとこが訴え出てた民事訴訟《観光的 景観被害の賠償保証の訴え》先月の初めに 京都高裁で判決が出て・・・
まあほぼほぼ満足いく被害の支払いは裁判確定したけど・・・でも…たとえお金が払われたとしても、《海は2度と戻ってはこない》・・・
なんとか、昔からの知名度…遺産で こうして継続出来てはいますけどネ、正直、ウチとこの娘の代まで…この旅館の伝統背負わせるのも なんか…不憫な気がしてきてネ。。。
この街イチバンの名旅館…女将さんの代で終わるのか…
・・・うん 知ってル。ぶっちゃけ 最近の女将さんの 疲れぶりは、その例の被害補償の裁判結果も絡んでいるんだ うん。
実質で《勝訴》なんだけども。。。そうしたなら・・・この旅館に 次々と・・・《いやがらせの電話》それが集中したんだ ああ。
わたいも受けた いやがらせの電話を帳場で、《よろしおましたわなぁ♪府から 1億数千万貰いはったんでショ?今度なんぞオゴってくんなはれヤ へへっ♪》っと ガチャっと切る。。。
バカ野郎っっ!! ココの旅館が、海が遠のいた事により被った被害額は 今回の支払いぐらいじゃ足りないのだゾ!正式には知らんけど デカ目のビルが建つぐらいの実質損害なんだ!
おそらくは…今回勝ち取ったとされる保証金だって、その大半は これまでの、金融機関からの融資の返済で消えていくのだろうって思える・・・
女将さんをはじめとして、ダレひとりとして、焼け太りなんぞはしていないのだ! 弱者が また他の弱者をイジメる・・・ああ!イヤだイヤだ。。。
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翌日 ジイさんの洋食屋に 手伝いに行きますと、ジイさんの旧い 将棋仲間の《トクさん》が、ナンでか? カオをマッカにして 憤っていました。
くそっ! 役人風情がヨ、要らん事すなってのヤ ったく!!
っと、トクさんは 人生幸朗のような口調で 独り怒っていて・・・
・・・あんナ、来週の日曜の昼、縦貫道路 宮津出口から続く、最後に残った部分の就工式行いますってヨ!
京都府から建設部部長、東京の霞が関からは 国交省の課長だかナンだかを招いて、一席ぶたせるよって、沿線の住民は出席するようにとサ(呆)
当日の出席までもを 取るとヨ!《脅し》ヤないかっ!完全にコレは。。。
当日自分とこに葬式でも出ン限りは 皆出席せえとヨ、泣けてくるワ!例の街を2分裂させよった 拡張道路の残り 五分のイチになって、もはや反対の意思を表しても どもならんのを承知して、
今更 こんなムダでしかない儀式 とり行ってナンの意味がアルってのヤ!!違うか?? コレは完全に…この宮津に棲む ワシらへのイジメであり、嫌がらせヤ。
むしろ可哀そうなのは 市役所の さっきウチとこにも回ってきた若い職員の兄ちゃん、《まことに済みませんが…》って、ペコペコ バッタみたいにアタマ下げて回ってたワ。
なあ?・・・アカンのか!? この宮津の土地がヨ、昔のまんまの 片田舎の観光地で??今風とやらの なんら個性も無い おもろない ノッペリした地方都市にならな 国は気が済まんのかっ!?
『まぁまぁ トクさん・・・そないメートル上げるなヤ』『血圧で倒れてまうデ』店に居合わせていた他の常連のお客がたしなめます。
トクさんは・・・
・・・チャウぞそれは・・・たしかにワシは、このシケた街の チンケな 鉄工所のオヤジでしかあらへん。
せやけど、この町に生まれ70年…この土地で過ごした《構成員》ヤ。レッキとした有権者やゾ。
相手がデカかろうとナ、ひとりの人間として【 云うべきことは云わなアカン!クチをつぐんではダメなのヤ! 】
エエか? 町並みはムチャクチャしやがってからに ボロカスに潰され 壊されてもヨ、生きているワシらのココロや魂までは、市も府も お国だろうと潰させへんゾ。。。
押し黙ってたなら、ワシらもっと!ブチのめされるゾ!
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翌日の日曜日のお昼、縦貫道出口開設に伴う 南北道路の最終部分の 就工式のイベントが、駅近くの市役所前広場で行われました。
ボクも行ってみました。予想した以上に多くの街に住む住人が集まっていた。式典の引き出物、紅白まんじゅうが配られるからだって、皮肉なジョークも飛び交ってましたが、
まさか 終戦直後の食用難時代じゃあるまいし。居並ぶ人たちの中に しぶいカオして立っている トクさんも居た。
やはり、市役所の広報課のにいちゃんが、汗だく必死で 町民らの参加を 這いつくばるように頭を下げ、その必死さにほだされた結果の動員だと思った。
第一印象はきわめて冷淡でぶっきら棒、他地域のヒトには評判のよくない この宮津の気質(かたぎ)ですが、でも、その笑わない表情の奥には、チャンと 赤い、熱い血が流れており、
私欲ではなく 懸命に汗を流すヒトの《義に応える》それがこの土地に暮らす人間の矜持であり 誇りでした。
冗長で 意味のない 市の開発課の役人と 市長による挨拶があって、アル中だってウワサの、地元の神社の神主が、へたくそな祝詞をあげて。
2小節に1回 ユニークな音を出す(笑)トランペットのマーチングバンドにノって、かき集めたらしい 地元女子小・学生らのバトントワリングが 動きの合わない小パレードをして。
ぶっちゃけ やるダケ かえって おサムい気分になってくるよな、絵に描いたダサダサの ド田舎のイベントそのものでした。
運動会でよく見る 仮設テントには来賓、京都府からの観光開発部の部長だとか、『エリート? はいワタシですが なにか?』ってのがカオに貼りついている、縁なしメガネに瀟洒なスーツ、30代だろう 若い国交省より来訪した課長だかの 将来の政務次官候補が、
この なんともいなたいばかりの田舎の儀式を 冷たい薄笑いの目で観ていたのを思い出します はい。
言わなくたって、この土地には、1ミリの愛情は無いのは判る
きっと かれらには、このド田舎のイベントは、18世紀の頃、未開のアフリカで、現地の土人の歓迎のもてなしや踊りを眺めている イギリス人の気持ちとイッショだったのだろうと思います ええ。。。
・・・街をズタズタに壊され・・・それでも この街は、府や国のエリートに侮蔑され 冷笑を受け…それでも、落ちてくる資金に狂喜して かれらの 上から目線の下 幇間のように卑屈にアタマを下げ続けなくてはいけないのでしょうか。。。
せつない気持ちで観ていたわたいですが、フト 気付くと、スグ真横に・・・あの塩崎のおっちゃん、かつての不夜城だった店が閉店し 解雇の身となった、店のネーチャン2人が立っていました。
マイクの前では、府の部長が さも得意げに一席ぶっています。
・・・え~~、たしかに今回の計画案の実行 100点満点ではございませんでした。地元の皆様にも多くの犠牲を強いました残念ですが。
でも・・・少なからずの 佳き副産物もございました。それこそが【 地元の風紀の浄化 】それであります。
昭和33年に 売春防止法が施行されてよりも、惜しむべきは この地域には、この丹後地方におけます暗黒街的な部分をどこか引きずったまま放置される そんな状態が長く続いた。
しかし今回、京都縦貫道 新道路計画という お国と国交省の皆様の大英断により、この丹後半島全体の発展と、この宮津の従来の肯定できない暗い部分を一掃する風を吹かすことに成功したのは喜びを以て迎えるべきです!
『・・・ふん モノは言いようだよナ・・・役人のマスターベーションそのものじゃ ないか。。。』
・・・殊更に声高く云いたいことは、道路拡張に伴う利点の1つとして、立ち退き策の最大の成功ポイント、
この街の通りに長くはびこり、市や府 国の指示や条例等にもまったく従わず、隙に振舞っていた 反社会勢力、その恐怖と暴力を一掃する事に成功した事です!
住民の皆様、もはやヤクザ者らは一掃されました 我々正しい市民の勝ちなんです!いかがわしき者らを駆逐排除出来えた事は まことに誇らしい♪
お子様に見せたくない いかがわしき店の殆ども閉店しています。いかがわしき稼業に従事していた住民らも、必ずや 真っ当な 正業への道に進むと信じます。 そう!街はクリーン 安全に生まれ変わったのです!!
ポタって・・・なにかが地面に落ちて、わたいはハっとして足元を観ますと・・・それは、ヨコに立ってます塩崎さんの店を解雇となったネーチャン、掌から落ちた 【 血でした 】はい。
ネーチャンはブルブルと小刻みに 震えながら…キレイにネイルした長い爪を 握った拳固 掌の皮膚に食い込ませたゆえの出血でした。
ネーチャンは震えたまま ちいさく呟いた・・・『そんな…補償金貰ってこの土地出て行けるのは社長だけヤ…ワタシどないしたらエエねん?仕事 無うなってしまっただけやん・・・ っっ!!』
もうひとりのネーチャンも『せや。中・学しか出てへんワタシらが…街がクリーンになったからって、どないして生きていけばイイのよ?』
教えてヨ 誰か。。。
『なあ?すべてワタシらだけがアカン云いますのンか??いじめて楽しいか?ワタシらが街から…この世から消えれば あとは皆 幸せになれるって云うのんか?? 』
そうだっっ!!この無謀きわまる乱開発を 喜んでいるのは 公務員ダケだ!! 主体であるはずの ボクら街の 通りの市民は、皆 こんなにも【 苦しんでいる 】
この街のボクらは、煉獄に堕ちた罪人なのか・・・
『御託宣の途中にスマンがヨ チト云わせてんか』 トクさんでした。。。 慌て出す主催者側の人間。
街の浄化にも意味はアルやろって思いますがネ・・・せやたけど、アンタはその目で…《その結果どうなったか??》…観てもおらんやろ 違うか?? 興味も無いですやろ?《担当が違う》云いはって、知らん顔ですか?
あのナ…ワシらの住む このかつての栄えた通り全体、夜ともなるなら ダレも通らん、《息してない街》それになったンやデ?
そうなりゃ当然 通りの商店は廃業、余計にヒトは来なくなる・・・。《水清くして 魚住まず》のことわざ知ってるやろ?
アンタら役人は、地域開発という名前の兵器で、土地の風景を壊し、通りの人間の生活を破壊し、この宮津の街の息の根を止めようとしてるのヤ!!
違っとらんやろが!?官民一体で 建設バブル起してヨ、この国にダブついてるセメントやらコンクリやらのウマい投棄場所にしたのヤ!
江戸時代から続く、この街の 花街文化もズタズタ・・・
海やった場所を埋め立て、通りをブチ壊し、丹後湾の海流までもを変えてしまった・・・で 結果どうなった ああ?? イワシが獲れなくなくなったダケとチャウ。
丹後半島最大の売り 天橋立の松林を支える《砂が》沖から運ばれて来ンようになってまって、兵庫の須磨から 年間で3千万もかけてダアンプカーで砂運ばせては補填してる有様やないか!!
金色の卵を産む ガチョウをツブシちまったンだヨ!
判るかアンタ?? 発展やあらへん…むしろ退栄【 破壊してるねん 】肥え太るのはゼネコンだけヤ! この土地のワシらは 座して死を待てってか!?
市長がカオ歪めて シッシ!って手を横に振るジェスチャーをした。途端に 制服ガードマンらが トクさんに張り付き、トクさんを強制排除しようと両手を取って・・・
『放さんかいっ!!アホっ』それを振り払おうとして トクさんは勢い余り よろめいてしまった あぶない!!
よろめいたトクさんを サっと 手を差し伸べてキャッチした人間が・・・見れば それはあの【 風街だった 】。。。
風街は 冷静に、でも堂々と臆することなく、よく通る声で、
『ボクは地元の高校に通う 風街といいます。国交省の方、以前ボクの父親が、とあるプロジェクトで一緒に仕事をしたと聞いてます。今 NTTの通信研究所丹後責任者を拝命してます』
国交省のエリート役人は、『ふうん…こんな田舎にも話が通じそうな文明人がいるのか』ってカオつきで風街を見下ろした。
風街は続けました。 …誰が悪人で 誰が被害者か?って論理では、時代の進化・変化って事側は永遠に解決しないと思ってます。でも・・・
お願いしたいのです ええ。。。覆水盆に返らず…この土地の開発は止められない。でも…この丹後半島と宮津の街の開発計画が【 決定的な失敗策だった 】その事実を握りつ潰す事無く、今後の教訓として残して欲しい。。。
ボクですが、神戸から この宮津へ移って まだ半年チとです。都会人としてのボクは、つまらない田舎だと正直思ってました。
だけど、絵を描くもので、この土地のアチコチをスケッチして回っているうちに、《判ってくるものが有った》。。。
あの…《地域産業価値》って用語 当然ご存知ですよネ?丹後半島はどぉ考えたって 僻地であって田舎です。
ですがネ…丹後の地域産業価値は 【 僻地であるがゆえに存在する 】のですよ ええ。この土地の 最大の財産価値は、《昔と変わらぬ大自然》それです。
この土地にどれだけの資金と資材を投入しても、東京や名古屋 大阪のように変貌する筈がない。。。それだけココの地は《自然の深さが大きい》のですよ。
この田舎ぶりは、手を付けない方のが絶対に価値が期待出ると確信します、だって・・・みっともないじゃないですか?ホンの1部分だけ 都会化したように観える田舎なんてのは。
丹後の自然に傷跡を残し、後に出来るのはイビツな《エセ都会》
ムリに開発を続けても、そこにはイビツな《都会モドキ》の無残な構図しか残りません きっと。
・・・そしてナニよりも、この街に棲み どうなろうとも生きていく人達が【 どんどんと不遇・不幸へと追いやられる 】・・・
その責任のすべてを お役所に押し付ける気はありません。でも・・・道路やハコモノさえ造れば 地域は活性化し、ヒトも幸福に導けるという従来の考えは 完全に間違っているいるって ボクは考えるのですよ。。。
《こらアカン》って感じで、市長らがなにやら話し合い、イベントの司会者が あたふたしながらマイクをとり『本日のイベントはこれにて 無事終了させていただきます 皆様ありがとうございました!』って。。。
集まっていた街のみんな、あはは♪って笑いました。こんなシャンシャンのイベント終わろうと困るもんか。唯一 突然の終で困惑、怒っていたのは・・・
(丹後の宮津でピンと出した)
○二度と行こまい丹後の宮津 縞の財布が空になる
(丹後の宮津でピンと出した) ※以下、唄ばやし同じ
○空の財布が思いの種で 二度行くまいとて三度来た
○二度行こまいとは昔の唄よ 二度も三度も寄りゃしゃんせ
○天橋立日本一よ 文殊菩薩に智恵の餅
○行こか戻ろか橋立なぎさ いとし宮津の灯が招く
○月が出ました橋立沖に 金波銀波の与謝の海
○今日は帰ろと橋立見れば とまれとまれと啼く鴎
○雨の降る灯は傘松下で 二人成相与謝の海
民謡「宮津節」を踊る予定だった 浴衣着こみ出番待っていた 婦人会のバアさんご一党ダケでした♪
・・・今日の真の勇者…それは【 風街 】キミだ うん。。。
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「今 何時ヤ?」 「食事会まではまだ45分 あまり早く行っては失礼やん」
「御馳走出そうやナ なんぞお土産持ってこか?」「こないだ貰ろぉたイタリアワインの赤白あるからそれ持ってく?」
「ワタシ ナニ着てこぉかしら…」 「赤がエエんとチャウか」
両親が会話してます。ずいぶんと、穏やかで 仲のよさそうな夫婦の会話に聞こえるなぁ。。。
だけど…あきらかにアレなんだ。。『そう振舞っている』…もう互いに期待など持っていないからこその、平静を装った芝居なのだ。。。
『ほな行ってくるデ』両親は2人揃って 通りひとつ向こうのお宅の食事会へと招かれ 出かけて行きました。
《なんか今日は色々あって疲れたなぁ・・・》勉強する気にもなれないボクは、即席うどんで夕飯を済ませ、ボーっとして、面白くもないTVを眺めていました。
8時半を過ぎたころ 家の電話が鳴り 出ますと かけてきたのは 大阪で親戚の家に下宿している 姉からでした。
その当時の我が家の座敷でス
『おかあちゃん 居らへんの?』
「●●さんとこで今夜 食事会あってナ、とうさんと出かけてはるワ 姉ちゃん、元気してはるんか?」
『相変わらずやねん、レギュラーメンバーあがれへん。リーダーの武内チャンには適わんけど、歌唱ならフミコ、踊りなら稲葉貴子にも負けてないんやけど…』
姉は 大阪で学業と同時に 大阪パフォーマンスなんたらって アイドルグループの活動をしてました当時。
『とくに週末となると 各地の《営業仕事》ばっかでナ。こき使われてるのやけど、TV出演ってなるなら、相も変わらず補欠要員なの…』
「まぁ 焦らんと ボチボチやんなはれて♪」
『おかあちゃんと おとうちゃん、仲良く出かけてるんてか。最近 仲がよぉなってきたン?』
「うん・・・昔みたいな派手なケンカは影潜めてるワ。でもなぁ…な 姉ちゃん…」
『なに??』
「たぶん もお…あの二人はじきに正式に別れる・・・離婚しよルって思うデ うん・・・」
『・・・・・・そうなん?・・・』
「ナンていうかナ?・・・お母ンととうさん、互いの基礎体温が下がったとでもいうか・・・」
『 体温 か・・・ 』
「ナマイキやけど、以前は…激しくぶつかり合うだけの《熱意》があった・・・嫉妬や怒りの念ってのも、男女を結び付けてる要素の1つやと思わへん?」
『・・・今はもう それすらが無いと・・・』
「そういうこっちゃ。感じるのやけどナ、アレはもはや夫婦とは呼べへん・・・まるで気の合う《トモダチ同志やて》…」
『・・・どないかしても…もはやダメなんかねぇ・・・』
父と母という、1組のカップルの判断に委ねましょう…
「子供のワシらも居てるからナ、表面上は落ち着いた夫婦【 演じているけど 】でももぉ…それも じきに終いやろナ。具体的にどない決めるかは、当事者の両親にまかせようやないか。出た結果がどうであれ、二人は ボクらの親であるって事実は変わらないのやからサ」
『そやネ・・・』
静かな夜の時間が過ぎていくばかりでした はい。
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夜が明けて いつもの早朝バイトも済ませ、「行ってきます」と、家を出て
のちの「港のリク」の原点でございます
ボクは少なからず 失望の念を抱えてました。バイト先の漁連の建物の2F 休憩室兼談話室に 吊るしてある各種の新聞。
主要3大誌から地方紙まで、それらを隈なく注視したのですが…昨日の就工イベントについては、近畿地方版のスペースに小さく 1段記事で報じられていましたが・・・
トクさんや 風街の《公開の前での追及》・・・それについては タダの1行も触れられていない事実に接し、思わずため息 落胆を覚えました。。。
だけども、きっと トクさんも 風街も、屈託なく こぉ云うだろう…『目立ちたくてヤった事では無いヨ』って。。。
資材が消えてる。。。
学校へと向かう道、トクさんが経営する 鉄工所の前まで来て ビックリしました・・・。店の前に柱や壁の部分に いつも立てかけている鉄筋や鋼材、それが全部【 消えている 】のです・・・
トクさんが中から出てきて『おはようさんリク坊。ぶっちゃけ この有様ヤ・・・笑うしかあらへんってヨ』
リク「・・・鋼材類…どないしましたんヤ??」
トクさん「ご覧の如く・・・市役所、市長の《さっそくの報復処置》それやろて。つまらん事ばかり仕事が早いねんアイツらは・・・。30分前に 2トン車で乗り付けてきやがった市の職員らが、《道交法違反で倒壊した際の危険が予想される鉄素材を強制撤去します》って、全部持って行きよった ああ。。。」
リク「・・・っっ!! そんなっ!!ガキんちょみたいな事しますか役所は!!」
トクさん「ワシ、ココの場所で 50年ショーバイしてるのやデ?これまでにイッペンも ンな苦情も警告も受けた事あらへんワ!あの阪神淡路大震災の時 宮津も震度五で揺れたが、立てかけた鋼材はタダの1つも倒れへんかった。だのに・・・」
まるでウィスキーをストレート飲みしたように、ボクはハラの中が ワっと熱く煮えたぎってきた気がしました。『この足で 市役所に乗り込んで、役所の職員連中 ギタギタにイてコマシたろか。。。』
優等生の仮面を脱ぐゾ こら・・・
でも、トクさんは なんでもないって風に、手に持ってたヤクルトを飲み干しながら、
「でもだからナンやねん?っちゅうのヤ このワシをナメたらアカンぞ。リク坊 心配ありゃせんて♪ホレ、見てみぃ」
1台の軽トラがやって来て 店の前で停まり、『じゃトクさん、さっきウチとこの社長が電話した通り、うちで余り物の不良在庫、ココに 放かさせて(捨てさせて)貰いますけん。使うなり、放かすなりスキにしとくんなはれヤ』って、荷台から鋼材類を次々 降ろしはじめました。
その後ろのほうで『お~い 早よしてんか!わしとこも降ろすンやからヨ』もう1台のトラック。 向かいの方角から また1台・・・なるほどナ、コレこそが トクさんの《仁徳》なのか・・・
トクさんも 荒くれだ。。。
ニヤリと笑いますトクさん『な?ワシら《鉄屋》はシブドいデ♪青瓢箪の役人風情の意地悪如きにダレが負けるかって♪ ほなな』
信号を渡り切った所の背後からダレかが出てきて…『この クソガキがあああ!!』って 頬にパンチ食らった。見れば…《 オヤジ 》でした。。。
こらリクっっ!!お前 姉ちゃんに告げ口したやろっ!?心配した 姉ちゃんの電話で叩き起こされたワ!ドアホっっ!!男同士の約束破ったナ!まだヒミツや云うたやないかっ!このボケ!
とうさん…アナタは悪い意味で『永遠の子供』だ…
・・・心底で…《ガッカリした》。。。このヒトが自分本位、自分勝手なのもアリますが、むしろそれよりも・・・
今より もっともっとガキの頃…やんちゃで利かん坊だったボクは 時折 オヤジからゲンコを食らっていた。
・・・あの当時のオヤジのゲンコは たいそう痛いモンだと感じていたけど・・・今しがた殴られたパンチ、つい思ったのは…《ナンだ…こんな程度のパンチだったのかヨ》って想い。。。
それに、今にはじまった事じゃないけどサ…とうさん つくづくアナタは、早トチリで、自分本位の解釈しか出来ないヒトだ・・・
ただの姉弟の近況報告の交換に過ぎない、ゆうべの電話は… 西京区への引っ越し計画も、キヌコさんのこともナンも漏らしてはいないゾ ボクはヨ。。。
青に変わった信号を走り渡ったオヤジ、道の向かいから『リクっっ!! このアホめがっっ!!』って、道に落とした通学カバンについてしまったドロを手で払い落としているボクに向けて毒づきました。
・・・ 言いたいなら…面と向かって 至近距離で云えヤ なさけない・・・。そんなに息子のわたいが 怖いか。。。
『どないしたん??・・・あのヒト リクのおとうはんやろ?ケンカしたん??』
マミコに見つかってしまったようだ。わたいは「ナンでもあらへん。ワルさがバレて とうさんに折檻されただけヤ♪」
「ワシのことよか、千代彦アイツどないなった??」
「うん・・・マルオさんの知り合いのヒトがネ、千代彦が潜り込んでる オカマさんのお店?突き止めてくれてネ。ウチとこの父が電話かけて お店のママ…パパか(笑)出て話しましたなら・・・」
「うん・・・」
・・・あんナ、父が云うには、電話で話したママは《人格者や!ワシは感動した》って。単なる家出少年でしかない千代彦を、警察にも突き出さず、ゴハンも食べさせてくれはって、大事に保護してくれてたらしいの。
《あのママは信頼できるエエ人ヤ。ワシはちょっと偏見ばかりに囚われていたと思う。今度アイツが帰ってきた際に 千代彦の言い分もキチンと聞いてあげようと思う》って。
根っこ部分でキチっと結ばれた 良き家族だと思った
だけど、千代彦が調子にノって、ヒラヒラのスカートで帰ってきたなら ハリ倒すだって(笑)
だけんど その期待は甘いド いひいひ♪
哀しく せつない気持ちを吹き飛ばすのに十分な とびっきりの笑顔で マミコが笑ってくれました。
・・・そっか。。イイおとうさんやマミコんとこの おとはん。。。
考え方が柔軟だ、実現性の無い 夢ばかりを追い、そこから一歩も抜け出せずに苦しみ悶えている ウチのオヤジより よっぽど偉い。。。
だけどネ マミコ…ボクは その どうしようも無いオヤジを《否定するのダケはしたく無いんだ ああ》・・・
オヤジを否定することは、半分は同じ血が流れている ボク自身をも否定する事になっちゃうからネ。。。たとえ離婚ってなろうとも、この世にボクの父親は あのヒト 独りなんだからネ うん。。。
それがリクめの「本当の本音」なんだ うん
なあ? それにしても、今日は本当に 良い朝じゃあないか うん。空は青いし 小鳥はうれしそうに啼いている。雪が降るまでの間、いちばん生きていることを実感できる季節だ。
正直、この街は『ダメな片田舎の都市の典型』なんだって思う。ナニひとつ自分たちの手では計画も実行プランも立てられず、府だの国などに いいように食い物にされてるばかりで・・・。
それではいつになっても 住民は《たまらない》・・・だけどサ・・・ボクらは【 それでも 生きてる 】ああ。
弱いヒトだらけだ この街。虐げられ 苦しめられ、ぎゅ~ぎゅ~に角の隅へと追いやられ、それでも足りないとばかりに無理難題を押し付けられる・・・
だけども、朝がまた来るなら・・・ボクらは寝床から起き出し、数多くの悩みや苦しみを抱えながら、それでも額に汗して懸命に働く。それしか無い…有ると云うならば 教えてください。
その数多くの 弱いヒトらの働きによって、とっくに賞味期限が過ぎた この街はなんとか・・・動き 回転しているのだ ああ。
ボクらこそが この街の主体だ。 おはよう 街のみんな 牛乳屋も パン屋さんも、豆腐屋も。コンビニで求人誌 必死に読んでいる、塩崎のおっちゃんとこ解雇されたネーチャンも みんな おはよう!
おはよう みんな おはようっっ!!
希望はとてつもなく儚くとも、メゲずに暮らしていこうヨ。精一杯今日1日を そう この土地はけっして福音の土地では無いとしても、
ココは ボクらの 棲む街だ。ボクらが此処に居る限り、けっして無くなったりはしないのだからネ♪
たとえボクらが 天井桟敷の人々であろうとも・・・
《 完 》
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【 IF YOU ARE PASSING BY THAT WAY 】(想い出を君に託そう)
作詞:奈良橋陽子 作曲:タケカワユキヒデ 編曲:ミッキー吉野
If you are passing by that way
That piece of countryside
Dome a favor, will ya? Dome a favor, will ya?
Dome a favor, will ya? And take a look for me
Take a look and see If that old willow tree
The one I used to swing on Is still standing gracefully
And just nearby’s the creek Full of tadpoles used to catch
Took home to watch’em grow But the died eventually
If you are passing by that way
If you are passing by that way
Just wanna know and make sure
Just wanna know and make sure
Just wanna know and make sure
If there’re still O.K.
Da da da…………
If you are passing by that way
If you are passing by that way
Dome a favor, will ya?
Dome a favor, will ya?
Dome a favor, will ya?
And take a look for me
And pussy willows growin’
On the backs of that creek
They used to feel like silk
When I rubbed them on my ceek
Dome a favor, will ya?
Dome a favor, will ya?
Dome a favor, will ya?
And take a look for me
もし君があの路のそばを通りかけたら そうさ郊外のあの路さ
僕の願いを聞いてくれないか
僕の願いを聞いてくれないか
僕の願いを聞いてくれないか
確かめて来て欲しいんだ 昔 ぶらさがったりして遊んだ
あの年老いた樹が 今も 力強くそびえているかって事をね
近くにはおたまじゃくしの住む 小川が流れていた
大きくなるのを眺めようと思って 家に持って帰ったらやっぱり死んでしまった
もし君があの路のそばを通りかけたら
もし君があの路のそばを通りかけたら
確かめてきておくれ 確かめてきておくれ
確かめてきておくれ 知りたいんだ
ダダダ…………
もし君があの路のそばを通りかけたら
もし君があの路のそばを通りかけたら
僕の願いを聞いてくれないか
僕の願いを聞いてくれないか
僕の願いを聞いてくれないか 確かめて来て欲しいんだ
あの小川の裏手にはネコヤナギが繁ってた
頬にあてると まるで ミルクみたいな感触がした
僕の願いを聞いてくれないか
僕の願いを聞いてくれないか
僕の願いを聞いてくれないか 確かめて来て欲しいんだ
https://www.youtube.com/watch?v=eldv7KvwmtY