夏場の「怪談」には チトまだ早いのですが、今回は色々な意味で「不可思議な事件」であります。
ある意味 今日のような日曜だから書いて見ようと思います、ウィークDayに書くべき気は到底起きませんし。
お断りしますが「荒くれのベル」の 切なくも爽快感はございません・・重苦しい出来でしかないとも・・。
ただ、こういう「信じがたい人間」が実際にいたのだ・・ということを述べたくて お届けいたします m(__)m
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今回 主人公は 八百政で、いつものフルーツショップの店主ではなく、探偵八百政でございます♪
興信所(探偵事務所)の仕事、依頼人よりの調査依頼内容に、意外に・・・数が多いのは『自分自身の素行調査』というものでして・・・。
これにはさまざまな意味があります、自分が周囲にどう思われているか?が気になって仕方がない、自分の情報がどれぐらい正確につたわっているか?
あるいは、自分にとって周囲の人間が ダレが信じられ またダレが敵なのかを見極めたい・・といったニーズによるものなのですが。
当時、敏腕の興信所所員だった八百政 個人指名を受ける形で、川崎市の小田急線の柿生という多摩川沿いに5000坪を越える大地主の資産家より、「自分自身の過去調査」を依頼されました。
調査を開始して どうってことない、ごくごくラクで平凡な調査に過ぎないことはスグにわかりました。
おそらくは富裕層の人間のフトした気まぐれ、自分自身の人生を振り返ると共に、自分が周囲にどのように映っていたか?を確認してみたくなったのだと八百政としては考えました。
代々の土地持ち長者の家に長男として生まれ、小学校から大学までのお坊ちゃん一貫校を卒業し・・一族が大株主である企業に就職し、見合いで結婚し、子供をもうけるも 残念にもその子は病気で早世し 以後夫婦で暮らす。
四十台半ばで系列企業の取締役に推挙され、定年まで、いくつかの取締役を渡り、無難につとめながら円満にリタイア・・・
元が金持ちですから、仕事や名誉に汲々とするこもなく、定年後はのんびり 趣味のゴルフとガーデニングに没頭する。
県内の俳句のサークルにも参加し、囲碁の大会にも出て3回戦ぐらいにまで残っている いわゆる「幸福な人生を歩んできた紳士」そのものでした。
おかしな点 不審な事実などいっさい浮かんでこない、ただ唯一の「??」なことといえば・・連れ添った夫人というのが 理由もわからないまま自宅外の某所で『自殺』(警察の最終見解)
仲の良い夫婦であったと近所の風評でしたが なぜか?・・・事実上の葬儀も通夜も行わず・・すぐに一族代々の墓所へ火葬の後 納骨されたという事のみ。
「・・・ご苦労様でした。よく・・・丁寧に調べたことはわかります。料金に合致した調査内容であったと思いますよ」
紳士の自宅へ 調査結果書を持参した 八百政にねぎらいの声をかけました 今回の依頼人 その紳士 羽村氏は言いました。
「おそれいります」謝辞を述べる八百政に 羽村氏は・・・
「で・・・もうひとつ イヤ・・2つですナ。今回と別個にまた調査を依頼したいんですが 受けてくれますか?」「よろこんで」
こういうのもよくあるそうで・・手はじめに依頼した調査内容で、期待していた通り、調査人のスキルが把握できますと、安心して、本当に調べてもらいたいと思っていた事項を頼んでくるという発展。
「で?次の調査内容は?」と八百政
「亡くなりました わたしの妻・・・そんなに過去まで遡った調査はいりません・・死亡する 1年前あたりから死ぬまでの期間について、どんなささいな事象でも構いません、とにかく集められるだけの情報を探っていただきたい、情報のまとめまで出来なくても結構、ランダムで構いません」
「わかりました。で? もう1つは??」
「・・・わたしの ジツの弟のことです・・・現在、山梨の刑務所に服役中です・・・」
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羽村氏の実弟 ノブヲは、己の事業で犯してしまった、商法の特別背任罪で有罪判決を受け 現在 刑務所で懲役5年6ヶ月で服役中です、
罪状とされる裁判の内容自体がいわく「とても微妙な案件」だったそうで、ノブヲ氏が最後のババを引いたダケだって説がもっぱらの風評で・・当然 地方審での有罪結果を 上級審での控訴 上告が予想されたのに ナゼか?地方裁判所での その微妙な判決を受けいれ服役しました、残りの刑期は1年弱です。
八百政が調べますに もっと不可思議な点は・・・ノブヲ氏が、刑務官事務所に仮出所打診を拒否、望んでいないという事実・・・
強盗や傷害 あるいはレイプとかといった いわゆる「ハレンチ罪」と違い、おおよそ商法違反といった「市民に直接被害が及ぶ懸念の少ない」犯罪の場合は、刑期の三分の二を超過したあたりで、受刑者としての態度がワルくない限り、仮出所の対象に充分なりえるのですが・・
サダヲ氏当人いわく『刑期の満了まで 保護観察状態で旅行ひとつ自由に行けないのは不本意だ、どうせなら縛りを受けない 満期までつとめあげたい』という主旨でした。
羽村氏とノブヲは、どうって特徴もない 裕福家庭に生まれた ごく普通の兄弟という風評しか浮かび上がりませんでした。過剰に仲がよくもなければ かといって敵対したって噂もありませんで、円満としか言いようが無い関係だったというのが周囲の風評。
それでも 八百政として 『 ! 』ときたポイントとして浮上したのは・・・
羽村氏の夫人 キリコが、警察発表による「自殺」する 半年前に・・・それまで千葉県の流山市に家を構えていたノブヲが、協議離婚をして単身 柿生の羽村氏の自宅からクルマで10分の住宅地に住宅を購入して移り住んできたという事で・・・。
『妻が自殺する 1年前あたりから情報を探って欲しい』・・・ってことは 要するにあれか??・・羽村氏は 奥さんの自殺に弟のノブヲが なんらか絡んでいるのでは?? と疑念を抱いているってことか??
そこで八百政としては重点項目として、ノブヲが移り住んだ住宅地付近をマークしまして、付近の証言を収集して回りました。
しかし・・・たとえばとして『ノブヲと夫人がひそかにココいらで逢っていた』というような証言はマルで挙がりませんで・・・
妻と実弟の密会の線は出てこず・・・
1度も来てもいない、というのではないのでして・・ふたりを見たという表現は続々・・いくつもあるのです、ただ・・夫人がこのノブヲ宅を訪れる際は ほぼ、必ずのようにノブヲ氏の兄 羽村氏がクルマで同行して、
コレといった人目をはばかる訪問なんかではない、近所のヒトにもにこやかに挨拶をし、派手に騒ぐでもなく、住宅裏手のこじんまりした庭で バーベQなんかをして仲良くくつろいでいました・・とかの証言でしかなく・・・。
仲も良好な一族って証言のみで
競売物件として、かなり格安に入手した中古物件でノブヲ宅は。クルマで10分という距離になったのも 一見すれば「単なる偶然」として充分な説明だと八百政も思えました。
自殺した夫人の人格というか、普段の行動・言動・交友関係も調べました。ごくごく典型的 中・上級クラスの人生をこれといった波乱もなく歩んできた やはり「しあわせなヒト」でして、ぶっちゃけ不審なる点は少しも浮かびません・・・
他人から陰口を叩かれるほどの 華美な贅沢も、奇矯な言動 行動も聞こえてきません。ハっとするほどの美人でもない代わりに、ジツ年齢よりフケ込んだ生活面での苦労とかとは無縁のヒトというのが近所の風評。性格も穏やかで 他人には親切な人であったというのが夫人 キリコ評で。
唯一 不幸なことは 一粒種だった長男の子供を 僅か4歳でインフルエンザから肺炎を併発させ 死亡してしまって ご夫婦ともにたいそう悲しんだ ということ。
念のため 子供の死因について疑惑なポイントはないか?と八百政調査しますに、見事にナンにも出なくて、ノブヲ氏の存在を疑念に感じるも、その時分 ノブヲ氏は単身赴任で北海道札幌勤務、子供の死と接点はなにもありませんでした。
『ナンの為??・・・さして意味などありえないだろう 実弟の調査を??』っと調査途上で疑問が生じてきた八百政。
本当のことなんですが、生活に負担を感じることなく人生を謳歌して生きている層というのは、意外にも「まったく単調でつまらない生活」の延長なのでして・・・
『面白さ』という点では 巷の庶民の方がよっぽどエキサイティングでスリルに富んだフレキシブルな毎日を送っています。「安心」という名の幸福には「退屈」がつきまとうと云う この世の皮肉であります。
要するに 羽村氏もキリコ夫人も、そしてノブヲ氏も、『わざわざ調べ上げるほどの秘密なんかマルでない』その意味では『凡庸な種類の人間』だったと八百政としては思えました その時は・・・・
しかし・・・八百政が抱いた 根本の疑念・・・『自殺をしたって夫人が・・・あまりにもそれにつながる《出来事》が少なすぎる・・・』という。
「なさ過ぎる」のがひっかかる・・
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自殺した奥さん それに現在服役中の弟・・・ある意味で双方とも 今となっては調べるのにはそのコンテンツが乏しいわけで・・・
八百政は、依頼者当人である 羽村氏を もう一度綿密にイチから調べてみようと思いました。
梅雨時のとあるウィークデイ、自宅から出かける 羽村氏を「尾行調査」する八百政・・・
羽村氏 柿生の駅までタクシーに乗り、小田急線に乗り 新宿まで・・・西口からまたタクシーで、銀座へ・・・
やはり、品の良い老紳士のセオリーなのでしょうか?デパートの「和光」に立ち寄り、館内をぶらりと一周し、「鳩居堂」で文房具類を見学・・
有楽町脇の 不二家の喫茶室でコーヒーを味わい・・古書専門の本屋をのぞき1冊を購入。歌舞伎座ヨコの 田屋というネクタイショップをひやかし、裏手の有名老舗の日本蕎麦屋で天ざるを注文・・・
なんてことない・・・一線を引退した老紳士の典型的 都会散策なのでしょう。空振りだ・・・っと思った八百政でしたが・・・・
「おや??・・」 羽村氏の目つき 顔つきが急に変わったのを 八百政も見逃しませんでした・・・歌舞伎座ウラというのは、同じ銀座でも、唯一 DEEPないわば「隠れ風俗」がきわめてひっそり蠢いているエリアです。
看板もなければ いちげんは相手にしない、一種の「隠れ家」です。
『野々村』板の表札が出ているだけの しもた家へ 周囲を気にしながら足早に戸を開け 入ります羽村氏・・・。
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びゅ~んっっ!!ガコっっっ!!それはマッタク突然の衝撃・・・
反射神経でとっさに、モロ脳天は避けましたが、こめかみあたりに鈍い衝撃・・・相手の凶器は靴下に10円玉を100枚ほど入れた「手作りヌンチャク」だった・・・。
襲撃してきた相手を見ますと・・・若くはない、大柄でもない、体力自体そうはありそうにも見えない・・・だけども、なにより「その目が」凶悪でした、イッパツでこいつの人生、相当の修羅場を渡ったんだろうということが理解できます「悪く鍛えられた顔」です。
しかし、本職のヤクザではないなコイツ・・と感じたのも八百政の職業的勘・・目と目が合って・・・やはり職業柄の動物的本能・・・ぶっちゃけ 両人とも相手の「匂い」を瞬時に嗅ぎ分けました・・・。
小柄でスキンヘッドのじじいが「なんだよ・・・【ご同業】かヨ・・・となると、すまねえナ・・いきなり襲っちまって すまん・・・」っと・・・
八百政「・・・おたくも・・・調査事務所なんでしょ??」
じじい「ああ・・・日本橋のハットリだ あんたは?」八百政「横浜・・みなとみらいの レクサス調査事務所です」
日本橋のハットリという探偵社は、それこそ戦前からの業界の老舗、古いだけあり顧客もイロイロとあって、胡散臭いものからキチっとした調査まで いうならば「業界の 何でも屋」的 事務所です。
のちに判明、意外や業界の大御所だったのだ
じじい「すまん本当に・・・うっかりアンタをどっかのヒットマンとカン違いしてヨ、ジツはオレもJR新宿から あの旦那をつけてたもんでナ」と・・。
八百政「気にせんでください ケガはありませんから。で・・・可能な限りでいいんですけど・・・情報交換といきません??」
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う~~ん・・・どういうこったこれは???・・・・
思ってもなかった方向にそれも「勝手に」・・・コマが動き出したじゃないのって・・・。
『アイツなら・・・もしかして ラインがつながる情報のコネを持ってるかもしれない・・・ココは賭けてみるか・・・』
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九死に一生を得る出来事 で知り合えた ハマの通り名 港のリク・・・
非常に一風変わったおかしな奴(テメエで書くのは切ない:笑)だけど、会社ではトラブルシューターの異名を持つ ヤバければヤバいほど頼れる人間で(だからって頼るな!!といいたい ^^);
夜の八時過ぎ リクはまだ 会社の事務方で 若手社員に怒りクルって説教中・・・
「あのナ・・・ナンでテメエは、よりによって Qさんなんぞ信用して ヘンな取引きなんぞしやがった ええっ!?」
儲けにゃシビアな関西人(^^;
怒るリク 若手男子はいまにも泣きそうで・・・
「そりゃナ、Qさん楽しいエエ人やデ・・だがな・・・【人間は表の顔ダケとチャウんやデ・・】商売の面では ぶっちゃけロクでもない輩なんヤ あのおっさん、もおイイっ!コッチのメッキが剥げんうちに、D社のほうに、7掛けで売っぱらってまえ!ココまできたもの ヘタに利益出そうなんぞ考えたらアカンど、これは一種のババ抜きなんやからナ。行ってよし!!」
「相変わらず ココロは荒くれだねえ リクさん」
「おお 八百政か♪ あんましヘンなとこ見ないなヤ(照)・・・若いのがヨ、日本酒の【久保寺】つかまされよってヨ、信じられるか?タンクローリー5台分やゾ・・・」「へえ・・」
「中身は本物というてもナ・・・1円でも高く買うって業者間をコロがされて、ぶっちゃけ 半年以上日本中を【旅】してきた日本酒が ぶっちゃけウマイと思うか??定価で堂々と買えるそれなりの酒のほうがゼッタイにマシな味や思うデ」「なるほどね」
「それはそうと・・・アンタに依頼された例の件・・・ぶっちゃけ チト、キナ臭い空気出てきたンとチャウか??」
「ああ・・・実際 銀座ウラで ひと悶着あったよ・・・」
リクは机の引き出しから書類を出して・・・「さっきのビジネスの話・・Qさんってヒト、見た目すっげ~いいヒトなんやけど、もうひつつの一面 どないもならん詐欺師まがいの要注意人物なんヤ。ある意味で 同じスタイルの人間かもナ、その 羽村ってダンナ・・・」
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リツコというのは元 本牧の芸者出身で、今はハマの磯子という街で小料理屋を経営する女将です、
ぶっちゃけ さびれきった店ですがごく限られた常連によってどうにか息をしている店で。
・・・ああなに? あの 柿生のお大尽のこと??まだ生きてんの?意外に長生きだわネ・・・とっくにクタバったと思ってた・・。
ぶっちゃけ ああいう変態でごくごくスケベは他にいないんじゃないかな あはは! ってゆうか、マジでイヤな客でさア・・・
オトコのスケベって、大体が一種パターン通り オンナからすりゃ可愛いモンなんだけどネ普通・・・あのお大尽だけは・・・猟奇的・・まさにそういう感じで・・。
マニアっていうにしては 凝り固まりすぎ・・・人間を愛していないってゆ~かサ、陰気で笑える要素がマルでナイしね~~・・・
あたしの妹分だった若いコなんかも、あのお大尽がイヤさに 芸者稼業泣いて廃業しちまうし ホント疫病神そのものだったわヨ。
ぶっちゃけさ~、カネ払いの問題以外に事で、本牧の風俗から出入り禁止くらったのってあのヒトぐらいじゃないかしら・・・
悪評ばかり浮かび上がるのはナゼ?
仕事??・・・当然バクチ打ちでしょ? 違うの??
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「お邪魔いたします、例の件 最終報告書を持参にあがりました。同行者がおりますが、調査所職員ではございませんが、構わないでしょうか?」
梅雨もそろそろ終わりに近い土曜日の夕刻・・・柿生の 羽村邸に着いた 八百政とリク・・・。
「どうです?まあ 調査の書類を読めばわかることですが・・・なんか出ました? 隠されていた【事実】ってのは・・・」
いかにも上品な 麻の和服を着こなした 羽村が応接室で応対して言いました。
ケナしようもない上品な老紳士としか・・
「それについてなんですが・・・」っと重い口調の八百政・・・
よろしいでしょうか?・・・羽村さん、正直・・・これほどラクな調査は珍しかったです・・・しかし・・・これぐらい【もうひとつの面で】ネジレきった事例も珍しい・・・。
正直申し上げます・・・もう・・ひとり分の調査費用を頂かなくてはなりません・・・この意味おわかりですよネ?・・・
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「ほほぉ♪ おもしろいことをおっしゃる・・・どのような意味でしょうかな??納得がいく説明なら喜んでお支払いしますヨ」っとほくそ笑む羽村氏・・・。
八百政はマイセンの高級そうなカップから紅茶をゴクリと飲んでから・・・
・・・それでは申し上げます・・・この世には【二重人格】・・・この言葉がありますが・・・
実際にどれだけの人間がそうなのか?っていうなら正しい数はわからないでしょう きっと・・・しかし、・・・【二重の人生を送っている人間も少なからず居る】ってことで・・・羽村さん、アナタもそのひとりですよネ??
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アナタは・・・ナニひとつ不自由もない 裕福な家に生まれ、順風満帆を絵に描いた人生を謳歌されたヒトです・・・
他人と揉めて争うこともなく、うらみも買わず、ごくごく上品な紳士として近隣からも愛される人格・・・それがアナタ 羽村ジュンイチでした。
一方・・・主に横浜の夜の繁華街で、淫蕩の限りを尽くし、アチコチに不義理を重ねて 事実上 出入り禁止に近い行動を繰り返す 「柿生のお大尽」と呼ばれる人間が居た・・・それが ハムラ順一そのヒトでもあります。
【もうひとつの一面】・・・それでは済まされません・・・これは完全な【ひとりの人間が演じる 二重の生活】です・・・。
古典落語に「百年目」という噺があります、堅い一方でならす大店の番頭が、ジツはもう一方では、花見に屋形船を借り切って芸者、タイコ持ち総出で遊ぶ 粋な遊び人であったって噺・・・
さながら 羽村さん・・・アナタと同じような【事例】ですよネ?? アナタの場合・・・ハマの繁華街、サディスティックな性癖で有名であると同時に、秘密賭博場の超常連、通称【柿生のお大尽】バクチ打ちとしての【顔】です・・・。
ひとつの・・結果として、アナタという人物はこの世に【二人いた】という 信じがたい【事実】それゆえ 二人分の調査料金だと申し上げている訳です ええ・・。
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「という訳でナ」っとリク。
「なんか・・・どっかで聞いたことアル話やと思ったンやワ・・羽村さんなんて名前だからピン!とこなんだのやが・・・なんのことない・・ハマの夜の街 クビ突っ込んでる人間で知らんヤツはほぼおらん、メッチャ無謀、破滅的なバクチを打つ 【柿生のお大尽】そのひとやったってことヤ」
「そうかい・・・ある意味 もひとつの顔こそが高名で、いうなら【実体】だったかもね・・」と八百政・・
リクは続けて 「ある意味でそうや・・・柿生のお大尽・・・なんせが素人のクセしてほぼ全てのヤバヤバな賭場にアシ突っ込んで、先物相場までクビつっこんで・・ぶっちゃけ百万 千万単位とチャウで、億単位の儲けや借金繰り返してるなかなか居てへん御仁や って評判だワ」
八百政「元々が大金持だからな、タネ銭に事欠く心配はなかったてことか・・・」
リク「けどナ・・チビっと気になるのはだ・・・どう勘定しても、昨今の羽村さんとやら、今現在 バクチで相当の負債 つまりが負け目抱えてるままやろ ってことでナ・・・いくらなんでも 打ち出の小槌は持ってないやロ?」」
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よろしいですか? まだ続けますが・・・
裕福な一族の経営する 安定企業の重役としての安泰な人生を送る一方で・・・きわめてリスキーなギャンブルに全てをのめりこむ、バクチ打ちとしての人生・・・
ぶっちゃけ ドッチが本当なのかはボクには予想もつきません・・ですから、これは二重人格うんぬんではなく、【2つの人生】を巧妙に使い分けて生きてきた それが羽村さん アナタです・・・。
ジツの弟さんと 自殺されたという奥さんの調査をボクに依頼した時点で、そのときにはわかりませんでしたが・・・率直に言います 羽村さん、アナタ・・ボクに挑戦したんですよネ??
『そんな通りいっぺんの調査なら わざわざオマエを指名して調査依頼なんぞしない・・もっと・・・ノド元エグるような真相を暴いてみろ』 と・・・
これって・・ボクのことを買いかぶったってより・・・バクチ打ちとしての【血】が騒いだんですよネ??果たしてこの若造が真相に辿り着けるか?・・リスキー溢れる 自分への調査追求すら 自分だけの賭け事の対象にしてしまう・・ある意味で根っからのバクチ打ちですよねアナタ。
ボクに与えた最大のヒントこそ この奥さんと弟さんへの調査・・・
調べさせてもらいました ええ・・・自慢ではないけど、普通の興信所職員ならココまで突っ込んでは調べません、すべての発端は やはりアナタ自身です・・・。
羽村さん・・順風な人生に見えて 不幸なことありましたネ、お子さんの病死もですが それ以外にも・・・
アナタ、二十代の半ばで【骨髄腫瘍】・・・脊椎カリエスに罹りましたよネ? 今よりもかえって昔の病院記録は律儀ですね、チャンと紙で保存されてました▲▲会記念病院のカルテ・・医療記録は抑えました ええ・・・。
時代的にちょうどカリエスの治療法が確立した時期で幸いにも日常の社会生活には手術後のハンデなどなかった 一見・・・
だけども・・・こういっては失礼なんですが・・・相当アナタも苦悶したと思われます・・・
「ふふん♪ ナニがですか?」っと、ポーカーフェイスの羽村氏
第10番胸椎にできた ガン化した腫瘍・・・それの除去オペが原因となり・・・あなたは若くしてインポテンツ症状となった・・・勃起中枢がオペで破壊されたんですよネ??
折りしも 亡き奥様との結婚を控えた時期です、おそらくは それまでに人生観が決定的に変わったのもこの時期ではないか?と・・・。
おそらく・・・焦燥を抱いたアナタは・・・率直に言います・・・【性的部分の代役を立てた】・・・それが弟であるノブヲ氏そのひとですよネ??
アナタとノブヲ氏は 親御さんの遺産の相続でも1つもモメることがなかったほど 仲の良い兄と弟・・・おそらく兄としての悩みを理解したのだろうと思いますノブヲさん、けっして浮ついた邪心はなかったと思います。
奥様も・・・どちらかといいますと、好きとか惚れあっての結婚ではなく、金持ち同士の血縁的つながりの一環での見合い結婚、いうなら「家柄」と結婚したようなものだった・・・。
事実を打ち明けられても 案外 衝撃も少なく、事の進展を冷静に受け入れたのではありませんか?? 理知的な羽村兄と違い、いかにも精力家で野生的な魅力に満ちているノブヲ氏ですから、本能としての拒絶はなかったのではありませんか??
「実際・・・我々3にんは どこへ出かけるにもイッショ・・・とても気の合うチームみたいなものでしたよ 確かに・・・」
昔を懐かしむように 羽村氏はどこか遠くを眺める目をして呟きました・・・。
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お辛ければヤメときますが・・続けます・・・
葛飾区四つ木・・・キノシタコーポの103号室・・・この意味おわかりですよネ??川崎の柿生・・・当時ノブヲ氏の住む 千葉の流山・・・
ちょうど・・・双方からの中間地点です・・・そこに羽村さん アナタの手引きでしょうが 部屋を借りてましたよネ?いうなればそこが 奥さんとノブヲ氏の逢引の部屋・・・。
当時から住む、古参のコーポ住人にも会えました、キリコさんとノブヲさん、共稼ぎで忙しく中々帰れない夫婦者だったという認識でした。ぶっちゃけ思惑通りですよネ??羽村さん・
やがて誕生した ご子息、タネは云うまでもなく ノブヲさんですよネ・・・それでアナタも実子として育てるつもりだったが惜しいことに病気で早世・・。
ココはまったくの想像・推理ですが・・・アナタのマジメ一筋だった人格がついに軋みを発して 別人格である 猟奇的な性倒錯者かつ博打打ちの 柿生のお大尽が台頭してきたのはこのへんからではあるまいか??
ナンでもが計画通りには行かないのが世の中です、一族の家名のため 世間体のため・・・思うようにならない自分の下半身の代役でしかなった筈の 弟と・・・自分の妻は、
かねてより予想していたよりもズっと・・・深い絆で結ばれてしまっていた・・・。しかし そこは仲の良い兄弟です、ドラマのような骨肉の争いには発展などしない、なによりアナタは弟さんを愛しても居ましたから。
それに第一 羽村さんアナタは、妻のキリコさんとノブヲさんに、自分が心底では嫉妬の炎を燃やしているなんて、プライドが許さず クチにするはおろか、態度に表すことすら出来なかったのでしょう?違いますか??
病気の後遺症により 下半身が思うようにいかないアナタは・・・バクチと同時に、ハマの風俗街で 猟奇的とも呼べる 性の遊びに没頭しましたよネ?複数の証言が取れてますから。
今こうして向かい合ってますアナタは いかにも元、企業の代表者をつとめたるに合致した ゴリッパな方ですが・・・
反面の「柿生のお大尽」としての人格は・・・オンナを縛りあげては、陰部へいろいろなヘンな器具やモノを突っ込んではとっかえひっかえ・・・
想像できます ありとあらゆる暴虐の限りを尽くす 鼻つまみ者として有名に・・・これは性の嗜好というよりも、鬱屈した感情のはけぐちが良くない方向でバクハツした結果ではないか? とも・・
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「で??女房の自殺についての報告を聞こうかね・・」っと羽村氏。
はい アナタは・・・こんなにも不自然な ぶっちゃけ【現実生活での帳尻あわせ】を必死になってしてるのに・・・ナンの気苦労もなく お気楽に逢瀬を楽しんでいる 弟と妻が無性にそして本格的に憎くなった・・おそらく。
弟を離婚に追い込んだのもアナタの仕業といえます・・・一種の告発状を当時のノブヲ氏の細君に送ったのは羽村さん アナタですよネ??
それが元で ノブヲ氏は離婚して・・・ココからクルマで10分の場所に中古の競売物件って・・・その手引きもアナタなんでしょ?? 確かにあの時代にしては不自然に廉すぎます、ノブヲ氏が正式購入書類にサインした期日よりもっと以前に「売約済」ってなっていた事実、これは否定できませんよ・
実際アナタは見事に【好人物】を演じきっていたと思います・・ノブヲ宅を訪ねる際は必ずの様に同席するイメージを近隣にも植え込み、寝室で自分の妻と 弟が同衾するのを納得したかのように黙認・・というよりある意味で勧めていた・・。裏庭のロッキングチェアでしばしひとり揺られている姿を近隣住民が複数 証言しています、妻と弟の愛の交歓が終わるまで待っていたのですネ、憎しみを蓄積させながら・・・。
で・・・自殺についてなのですが・・・残念というか・・ボクは一介の興信所職員です・・警察官でも弁護士でもない、正式に複合的捜査をするには限度があります・・
ですので、状況証拠のみ、推論でものを言わせてもらいますことご了承ください・・・。
「うむ・・・聞こうではありませんか・・・」っと羽村氏 ソファに座りなおし・・・。
よろしいですか?? 奥様が遺体でノブヲ氏宅で発見されたという まさにその日・・・
当日 柿生駅付近を中心にして営業稼動していた神奈川中央交通のタクシーが、夕刻の時間帯に タクシー強盗に遭いまして・・・
単純なもの盗り事件だったのでスグ解決したんですが、その日の それまで乗せた客・・・搭載されてた「防犯カメラ映像」に・・・
かつての ノブヲ氏の別離した細君と ひとり娘の姿がバッチリ 証拠として残っていた訳でして・・・。
ノブヲ氏の細君の実家である茨城の鹿島あたりから、よりによって自殺事件の当日、ナンの用事だったのででしょう?? 本来なら超重要な情報な筈です、しかしそれについてのことは、警察もアナタ方もまるで あえて避けるかのように、重要視していない・・・。
ひとつの・・・きわめてデスペレートな推論です・・・羽村さんの奥様を殺害したのは・・・ノブヲ氏の別れた細君と娘さんだったのではないでしょうか??
「根拠は!?」 羽村氏が鋭く訊きます・・・
根拠は・・・ここに同席する 港のリクからの情報です・・・。
こう見えてもこの人物、捜査の協力やらなんやらで、神奈川のアチコチの署に知り合いが多い・・・。
平沼署のベテラン警部を通して、当時の担当署の事件調書のコピーを入手しました もちろんこのコピー 表には出せません、露見したら色々な意味で少なくとも数十名単位で警察関係者のクビが飛ぶ【大事件】後世に語り継がれる大スキャンダルでしょう。
よって奥さんの「自殺」説処理が「他殺」と修正され 再度の捜査・審理されるにしろ、その裁判資料には採用されない・・されたなら全てがひっくり返ってしまいかねないジツにあぶないシロモノです。
ぶっちゃけた話 それってダレにとって有利なのか??羽村さん アナタならご存知ですよネ??・・・
それによれば・・・『下穿き・・つまりが女性のショーツ・・表と裏が逆・・および パンストが前後逆状態で着用』・・・ということは??? ひとつ考えられる推論は・・・『死後に第三者により履かされた可能性』ってのがどうしても・・・。
殺害事件と仮定して・・そして犯人が女性だとさらに仮定するならば・・・普段履きなれたアイテムを死体に履かせる場合に・・慌てたにせよ間違えて裏表・前後が逆に履かせるミスなど犯すでしょうか??
ホントに。恐ろしい推論ですが・・・羽村さんの奥さんの遺体を 帰宅したノブヲさんが見つけたとき おそらく奥さんは【全裸】だったのではないでしょうか??
構造をスグに悟ったノブヲさんは、羽村さんアナタに相談・・・駆けつけたアナタはノブヲさんと共同で、全裸の遺体に服を着用させる偽装工作を実施・・・
それ以外、外部へのなんらかの【運動】が在ったのかどうかは藪の中ですが・・・とにかく 奥さんの【死】は 不審死ではあるものの、事件性のない【自殺】として最終処理された・・・。
今から4年以上前の事です、当時はDNA捜査などは主流ではなかったし、なにより 裕福な家の奥さんを恨みにより殺害するにふさわしい【動機】を有する該当人物が浮かばなかった・・・
自殺という見解すらも、もしかしてキリコ夫人が、室内で転んで、その際にアタマを強打した【事故】の可能性も充分あるという 正直【玉虫色の見解】・・その結果として 生命保険金もほぼ満額支払われてますよネ?
正直 官僚組織化した現代警察の良くない点ですが、証拠主義で容疑者と被害者を結ぶ動機が浮かばない不審死は、ついつい【事件性なしの自殺】と、処理したがる点も、ダレかにとっては有利に働いたってことで・・。
それと 空恐ろしい推論ですが・・・ノブヲ氏の家庭を壊したのはアナタなのですが・・・スグ近くに逢引に便利な住宅を与えたのも・・そして、元のノブヲ氏の細君と娘に 自分の女房を殺害するよう・・・【暗に誘導し 仕向けたのはアナタ!!】ですよね??・・・
おそらくは・・何日の何時頃 ノブヲ邸に来られヨ と・・決定的な真実がそこにある、紛糾する離婚訴訟 慰謝料算定が変わってくることでしょう・・っとエサを撒いたのではありませんか?キリコ夫人にも言葉巧みに その時刻 ノブヲ氏の自宅寝室で全裸でいるように巧妙に指示したかも知れません 全ては想像ですけど・・。
おそらくはそんなアナタのことだ・・・自分以外の周囲の人間が役をふられた役者のように演出家である自分の指示でその通りに動くのが面白くてたまらなかったのでしょう・・・
自分の平和だった家庭を崩壊させた その相手の「オンナ」が、別れたとはいえ、元の亭主の新しい屋敷で、一糸まとわぬ全裸で ベッドで寝ていたなら・・・元の女房と娘として、どのような感慨を抱くか??少なくとも『今度イッショにお芝居観に行きましょう♪』ってな会話にはなりっこないですね? それすら冷徹に計算済みだった気がします。
奥さんにかけられてた保険金もあります・・・しかし、もっと興味の対象は正常な性行為を出来ない自分の鬱屈を、他者を苦しめることでウサを晴らそうとしたアナタの 歪みきった精神構造こそ震撼するのです。
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「ふっふっふ・・・あながちバカではなかったんだね・・・噂に聞いていたがやはり切れ者だねキミも・・」おだやかに この【悪魔】が嗤いました・・・。
「だってサ、仕方ないだろ?あの母と娘、完全な運命の被害者だゼ・・ワタシと弟 それに女房な・・それがヘンな世間への小細工試みたばかりに・・損な役回りで傷つけたからサ、そのうえ刑事犯には さすがにさせられないじゃない?・・だから必死に母娘を説得して、最後は催眠術師まで動員して(笑)『アレは事故だ わたしら母娘はなんにも関与してない』って洗脳したんだよ あの母娘・・」
そうですナ・・・実質的な殺害の犯人にしても、おそらくは・・・計画的な犯行ではなかったんじゃないかと思います・・・行きがかり上の アクシデントに近い衝突の結果ではないか?? とも・・結果として死亡させてしまった・・当初はそれだけだった筈で。
しかし・・・この事は同時に・・・今までとても仲がよかったあなた方兄弟がお互いを呪い 死を願うきっかけともなった・・・
羽村「・・・・・・・・・・・・・・」
現行法での【民法】による大原則です・・・実子が存在しない以上、もしも羽村さんアナタが死亡された場合・・・残された遺産は、すべて・・・ジツの兄弟である ノブヲさんがいっさいを引き継ぐことになります・・。
しかし・・・かつての妻と娘・・・その犯行を隠す行動をして・・偽装工作もした・・そのノブヲさんに その資格があるか??となりますと専門家でも意見がおそらく分かれるでしょう・・・。
あなたがた兄弟は、同じリスク・・・片方が崩壊すればもう片方も壊れてしまう・・・皮肉な運命共同体となった。互いを嫌悪し恐怖心を抱きながらです。
その兄は、ジツのところ 脊髄にあったガン細胞が もはやリンパへ転移しているって事実からして、その意味でも あの【不審死】についてダマっている他はない・・・
だが・・・隠れた一面を持つ 柿生のお大尽である兄が のほほんと弟の自分を信じて放置しているとは到底思えない・・・事実 自分の家庭を破綻に追い込んだ張本人は他ならぬ兄・・・
ゆえに 恐怖と疑念にかられたノブヲ氏は・・・そう・・・『磐石の隠れ場所』として、有罪判決を受け入れ入獄したという訳です ちがいますか??
「すいませんが、わたいにもひとこと言わせて貰いますが・・・」っと 港のリク・・・。
羽村さん・・・っていうより ハマでの通り名 お大尽 って方がコッチにはピッタリしますナ、いや・・・羽村さん、会社の代表者だった羽村さんなど 我々ハマの者はまず知りませんよって・・
稀代のバクチ打ちである お大尽はそりゃ有名です はい・・・有名な落語家・・立川談志師匠おりますやろ??直接わたいが知己ではナイのですけども、何度か ハマの資産家のダンナのつてで、宴席とか同席した経験あるんですが・・・
そのトキ、師匠がクチにしてたんですよ・・・『や~オレの知り合いでネ・・そいつ借金まみれなんだヨ・・で、そいつ言うにはだ、死んだトキにナ・・生命保険金ですべての借金チャラにする♪』って嗤ってんだ・・』って噂話・・・それ 羽村さん いえ、お大尽、アンタのことだったンですよネ~??」
「くそっ・・・談志のバカ 余計なことを・・・」羽村氏が少しですが激昂し・・・。
「いうなれば全てが『バクチ』での負債ですよネ??表での負債、ウラの隠れた負債・・・合わせますと現在 お大尽、アンタはんが抱えてはるバクチでの借金と、保有している財産総額に加え死亡時保険金は ぶっちゃけ借財と【トントン】じゃありゃしませんか??弟さんには悪意の計画的【自爆装置】ですよネ??せっかくシャバの生活犠牲にして、弟さん牢屋へ逃げてるのに・・・ぶっちゃけシャバで出てきても、もらえる資産はドコにももうナイってことやんか・・キッツイ話やんか・・」
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「ふっふっふ♪よく調べた・・・汝ら素人探偵 賞賛あるべし・・・」不気味にほくそ笑む 怪紳士・・・。
「正直 世の中はバカばっかだと思ったが そうともいえない若いのも居ただけ満足だ♪ だが・・・ひとつ訊くんだが 探偵さんヨ・・」「はい??」
ある種の勝ち誇った表情をして 羽村氏・・・「で?? それだけご苦労にも丁寧に調べ上げても・・肝心の・・・【物的証拠はいっさい】・・・ナイんだってことだよナ??ふふふ・・・」
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勝ち負けが狙いだったわけではありません我々・・・しかし 見事に負けました はい・・・。
ボコボコにケンカでノされてまっても、なんでか?ジツに気持ちの良い負け方もアリますが、反対に、加点の差もナイ 微妙な判定でも鉛を呑んだような気分がすぐれない負け方もあります それが今回でした。
あの屈折した悪魔は・・・なんのことない、もしもの場合のテメエの安全地帯の地固めを八百政とわたいにさせたに過ぎません・・・要するにテメエの悪巧みがいかに【完全】であるかの検証をわれ等にさせたのです はい。
すでにオマエは地獄に堕ちている・・・
おそらく・・・羽村は放置しても 数ヵ月後には鬼籍へと旅たつと思われました。末期ガン患者特有の「体臭」がプンプンしてましたから・・。
トボトボと羽村の屋敷を後にして 駅へと向かう道・・・
「あ~~気分すぐれへんナ・・・」 「まったくだ・・・」
会話も当然 弾みません。
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たとえそれが事実ではなかったとしても、いったん「自殺」と認定された事件を根本からひっくり返す作業というのは並大抵ではありません・・・
それも・・利害関係もいっさいない他人であるボクらがナニを根拠として その正義を正すのか??っと問われればダマるしかありません、功名心・・それだけかも。
意味がありません・・・正式な裁判として立件化される以前の段階で羽村はこの世からランナウェイ♪してしまいます・・・。
4年近く経過した今に、ノブヲ氏のかつての細君とその娘を弾劾しても意味はあるでしょうか??ノブヲ氏もそうなったからといって得はありません、商法違反と殺害事後共犯、幇助は関係ない、むしろ刑期が延びるのみ・・・
当時の捜査関係者が 今になって罰せられても 果たして意味などあるでしょうか?? 一部の関係者はすでに定年で職を辞しています。
なんたってイチバンの障壁・・・事件現場であるノブヲ邸が、事件当時のままあるわけがないのですから、新証拠など出るはずもなし・・・。
ぶっちゃけ 露悪的でイヤなヤツにもほどがあるって感じです 羽村・・・オレらにテメエの足跡を探すだけ探させて・・・それ上は手出しは不可能だって 勝ち誇りたかった・・それが依頼の【本心】です はい。
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「それにしても八百政よ・・・」「うん?なんだいリクさん?」
「アンタが銀座ウラの路地で ハチ合わせした 同業の探偵のことは さっき言わなんだナ??」「うん 云おうとも思ったがシャクだから云わなかった」と八百政・・
ハットリ事務所の調査員・・・彼は 現在獄舎にいる 「弟のノブヲ」の依頼により兄の身辺警護をかねて羽村に張り付いていた人間で・・・
ノブヲ氏とてバカではありません、兄が相当ヤバい組織とか人脈からの借財が蓄積されているのは 当に把握していて・・・
一見しますと 資産家の兄の財産を期待している凡弟って感じですが・・・皮肉にも・・・本当の意味での「博才」バクチにおける「カン」はノブヲ氏のほうが勝っており・・・
競馬や宝くじ あるいは外国の正式カジノでひと財産築いていたのは 他ならぬ ノブヲ氏の方で、なんという皮肉・・・
われら庶民には想像もつかないカネを 兄の羽村に貸していたのは ノブヲ氏・・・自分のかつての妻と娘の凶行に対する贖罪意識もあったのでしょう きっと。
不気味な兄の元から逃亡する意味もありますが、実の兄弟としての愛情もあったと思う・・それに 兄に貸しているカネが返されないうちに兄が死んでしまいますと 元も子もありません・・・。
いわば「資産の保存」の意味で 獄から指令を発して、事実上 兄のことを陰でコッソリと「守らせていた」ということで・・。
羽村は自分の力量や財力によって今のところ ダレにも手出しされないと踏んでいたようですが、どっこい!羽村ジュンイチではなく、柿生のお大尽としてのハマの筋からは事実上の「賞金首」で・・
一昔以前のようなトンデモない無法なる暴力等はナイにせよ、調子コイてフラフラ歩いてるのを発見されるなら、ラチられて相当怖い目に遭う それだけは本当です はい。
ぶっちゃけ・・・かの タイタニック号がどうして?? あれだけの遭難者を出したか?というなら、約7割に及ぶ乗船客が、海水が船内に飛び込んでくる瞬間まで 沈没の事実を知らされてなかったからでありまして・・・
真実の情報を知らされていない人間というのは、陰で指揮する流れには逆らうことも出来ず、状況の中 漂うのみ・・・一番の黒幕に思える 羽村兄でさえ、ナンのことない、忌み嫌う弟のチカラによって生きながらえていることを知らないのでした。世の中は皮肉・・・。
おそらく・・・羽村は ココロの中でベロをあっかんべ~~♪っと出して、追求が起きる前に皮肉な笑顔をしたまま この世からオサラバするツモリなんでしょうが・・・
ジツは・・・ぶっちゃけカネを貸付している かなり怖い筋はそれまで待ってくれない・・・正直 今にも おっとり刀で返済を迫って【屋敷に乗り込んでくる】そんな気配なのでありまして街の雰囲気としては・・知らないのは当人のみ・・。
「その事実」を教えなかった八百政の気持ちはよく理解します・・・ぶっちゃけ 憐憫とは真逆です、『ひとつぐらい知らないままでマヌケにクタバリやがれっ!』って、オレらの意地悪だった。
「もちっとダケ 長生きしてて欲しいわナ あのオヤジ・・。勝ちっぱなしで死なせては あまりに気分がワルいやんか・・・」「そだよね」
この事件が直接の「きっかけ」・・・って訳でもないのですが・・・八百政は正式に 興信所を辞して 家業である八百屋を継ぎました・・・。
盟友の一人として理解できました。ぶっちゃけ非凡な才能の持ち主ですが、コイツもいうなら【ガラスのココロ】を持つ人間です、それもピカピカの透明ガラス・・・。
利用されたされないのはどうでもよく、あまりにも・・・人間のココロの悪魔的場面に遭遇し、それを「むべなる哉」として受け入れる事など出来なかった・・・。
かくいう リクめも同じです・・・要するにボクちんらは 『オトナになりきれない偏屈な小僧』のままでありまして・・・。
今回の事件から遡る三月ほど前・・・某若者向けサブカルチャー月刊誌に小特集があり・・『平成 21世紀の若手、業界のカリスマ』って記事 その半ページに、
『プロファイリング手法捜査はハズレなし!ハマのシャーロックホームズはオタク野郎(笑)もはや警察を超えた(??)』ってコピーで八百政が紹介されたのでした。
それゆえ、その雑誌記事を読んでの指名依頼が後を絶たず・・この羽村という悪魔はそこに目をつけ・・・有能なる若手探偵をワザと使い、テメエの過去の犯罪を暴きだすよう計画し・・・
より憎らしいのは・・八百政が事の真相にたどり着いても もはや事実上 それ以上はナニひとつ出来ない・・・無力感にヘコむ・・ってことも折込み済み・・・
この「いやなやつ」は、この世の最後のウサ晴らしに、八百政という若者に最大の屈辱・敗北感を痛烈に与えるが為 彼を指名してきたのでした。なんて奴なんでしょうまったく・・・。
しかし・・ボクらのそういう部分ですらを・・・今こうして砂をかむような無力感に襲われてヘコんでる構図さえも予想して・・ あの真の悪魔は、とっくに見抜いてハラの中で嘲笑ってるのではないか??とも思えるわけで・・・
そうなりますと、ヘコむだけ かえってそれは羽村って いやなやつ の、それこそ「思う壺」でもある・・・。
ま・・・いつまでもヘコんでてもナンもならん・・・元気は出ないがゲンキだそ~っ!!
宗教は信じないが、死んだ後の世界・・・天国や地獄がまったく無いとまでは定義できんしナ♪あのクソおやじ・・・クタバりやがったなら、地獄のVIP席はアイツの為空けられてる筈だから。
この世の中 本当の悪いやつ 残酷な人間 それになんたって「いやなやつ」は居るんだという話でした はい。
少なくとも、ボクは太陽の下 堂々と生きよ~ゼ♪